ジェトロセンサーの今後の動き
T生産方式の基本は、「人づくり」にある。
T生産方式で言うところの「少人化」というのは、生産量に応じて五人でも三人でもやれるようにすること。
定員化しないやり方だ。
景気がよくなったら多くの人を雇い、悪くなったら人を辞めさせればいいというのでは無責任きわまりない。
少ない人数で、他社に負けないだけの生産をできるための工夫こそが大切であろう。
そのためには単能工ではなく、多能工を育成する必要があるし、モノを探したり、取りにいったり、運んだりというムダを限りなくゼロに近づけるシステムが必要だ。
多能工を育て、標準作業によって、ムダを排した効率のよい作業を目指す。
すべては市場の変動するニーズに柔軟に対応するためだ。
単能工に甘んじていたり、「見て覚える」指導を続けているようでは、いつまでたっても景気次第で、人を雇ったり、辞めさせたりを繰り返さざるとつかんでいるか否かだ。
世界の標準価格を知っていれば、それをもとに取引先と話ができるし、場合によってはその価格でつくるにはどうすればいいのかを一緒になって考えればよい。
自社に余力があれば、内製化によって、これまで安くても五○○円かかっていた部品が、一五○円でつくれるかもしれない。
こうした細かな努力の積み重ねこそが、原価低減につながる。
いたずらにやみくもに取引先に仕入価格の引き下げを要求するのとは、わけが違う。
T生産方式を導入しようと考える企業が最も陥りやすい誤りは、かんばん方式のような手法にとらわれすぎるからだと、再三触れてきた。
そのため、取引先に対して、無茶な納品方法を要求したり、何でもかんでも「かんばん」をぶら下げたために、かえって仕掛かり在庫が増えてしまったというケースもある。
生産の平準化ができず、そもそもかんばん方式が馴染まない業種もある。
まして今日のように、ロボットだ、ITだと、新しい技術が次々と生産ラインに導入される時代では、ムダの出方も変わってくるため、手法だけにこだわると、かえってムダを生みかねない。
自身が、さまざまなアイデアを出して工夫する。
そうすれば、働いている人も能力をフルに発揮できるし、やりがいも生まれてくる。
T生産方式というのは、別に乾いた雑巾から水をしぼろうとしているわけではない。
取引先の体質も一緒になって強化し、ともにコストダウンを図ろうとする。
働いている人についても、多くの改善を積み重ねて、能力がフルに発揮できる体制をつくろうとする。
そこに尽きる。
何事もゼロから見直す努力をすれば、改善の余地はいくらでもあるし、それが進歩につながっている。
T生産方式をただのケチケチ戦術と思っているようでは、まず導入は難しい。
それまでには「平準化」など、クリアすべき課題は多々あった。
なかでも大切なのは、T生産方式とは、どこまでも「消費者を第一」に考える、マーケットインの思想によって貫かれたシステムである。
T生産方式は、どこに端を発するか。
基本思想を支える二本柱の「自働化」はT氏、「ジャスト・イン・タイム」はTK氏が最初の発案者である。
このシステムを運営する道具とも言える「かんばん方式」は、米国のスーパーマーケットにヒントを得ている。
O氏が、消費者にとって、必要なモノを、必要なときに、必要なだけ入手できるスーパーマーケットを生産ラインにおける前工程とみなし、消費者にあたる後工程が、前工程に必要な部品を、必要ときに、必要なだけ買いに行き、前工程は売れた分だけを補充する(生産する)というシステムをつくった。
だが、うちには向かないと考えて、導入を諦めてしまう。
しかし、ここで諦めてしまうか、それともなんとかものにしよう、と努力するかどうかで、大きな差が生まれる。
これまで、一社単位で指導するだけでなく、グループ企業何社かをまとめて、改善委員会という形の勉強会を続けた経験が何度もある。
同じように勉強会には参加しながら、参加各社ごとに成果はいつも大きく分かれてくる。
原因はさまざまある。
大きいのはトップが本当に危機感を持ってやりぬくかということ。
もう一つは、より自社に合った手法を見つけるために改善を継続できるかどうか。
T生産方式導入の成否は、まさにこの点にかかっている。
手法そのものについては、Tの手法から学んでも、その手法を無理矢理自社に当てはめる必要はもちろんない。
顧客重視や現場重視、そして競争力のあるモノづくりを目指すといった考え方をしっか抑える。
Tを参考にしながら、手法は自社流に改善をしていくほうがよいに決まっている。
たとば、かんばんが使えない企業の場合は、代わりに、生産指示票を使うといったアレンジの仕方はいくるという発想である。
O氏がT生産方式を少しずつ試み始めた昭和三○年代の日本は、圧倒的なモノ不足の時代である。
少々品質に難があっても、モノをつくりさえすれば、右から左に売れた時代だ。
大事なのはいかにつくるかであり、明らかに消費者よりもつくり手が上に位置していた。
にもかかわらず、Tでは、消費者を第一に、後工程重視の生産システムを構築しようとしていた。
当時としては特異な生産方式であったため、本当に機能するようになるためには、とにかく改善に次ぐ改善の必要があり、改善の中心にはいつも現場で作業をする人の知恵と創意工夫があった。
これが、T生産方式の系譜である。
だからこそ今日まで最強のモノづくりとしての地位を守り続けている。
T生産方式を自社のものにしていくには、生産者優位の考え方を捨て、後工程を消費者・顧客と考えたうえで、作業をしている人自身が、よりよいモノづくりを目指して改善を重ねていかねばならない。
もちろんかつてTのトップが、米国に負けない、日本オリジナルのモノづくりを目指したように、トップ自身がどのような目標を目指していくのかが最も重要になる。
みんなが知っていて、しかし再現できないT生産方式の導入の難しさについては、さまざまの人が言及している。
「T生産方式は、これまで世界中で徹底的に研究されてきた。
また、導入しようと学習した企業も数知れない。
にもかかわらず、Tと同じように実践できたところはない」。
「Tは別に隠さないから、N社だってM社だってT生産方式は知っているという。
でも何かちょっとだけ違うところがある」。
T生産方式の不可思議さを指摘する人も多い。
O氏もそうであったように、Tは驚くほどオープンにノウハウを披露してきた。
たとえ一時的にうまくいっても長続きはしない。
かつてCがブームになったとき、いつのまにか報奨金を目的に、発表のための作業に追われるようになり、C本来の目的が薄れていった例がある。
このようにたとえどんなに優れたシステムであっても、手法だけがひとり歩きしてしまうと、いつもいい結果はもたらさない。
T生産方式の導入にあたっては、手法を研究する前に、まずは基本となる考え方の理解が必要だ。
同時になぜ導入したいのかを明確にして、トップと現場が、自社流にアレンジし続けるという努力を怠ってはならない。
目標に向かって、そして手法は常によりよいものを求めていく。
これこそがT生産方式の真髄と言える。
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